大判例

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東京高等裁判所 平成2年(う)603号 判決

本件の火炎弾発射装置は,装置の全体に電子機器等を組み込んで作製した時限装置によってコントロールされたものであり,これを他から窃取して来た普通乗用自動車の後部トランク内等に設置し,その自動車を目標地点に乗りつけて駐車させ,運転者等は車室内に設けられた右時限装置のスイッチを入れて現場を離れ,その後順次各部品が一定の時間差で作動して火炎弾を発射し,自動車を炎上させて証拠を隠滅するものであり,犯人がその身を安全な場所に置いたまま,警戒の厳重な場所で火炎弾などを発射する巧妙な装置で,火炎弾発射等による人の生命,身体及び財産に対する危険は極めて大きく,また深刻な社会不安を惹起するものであって,ゲリラ闘争手段としては極めて有効なものである。だからこそ過激派集団は,この種時限装置つきの火炎弾,爆発物等の開発,性能向上に躍起になり,一たびこれを使用すれば,直ちに自派の手によるものであるとしていわゆる犯行声明を出し,その成果を誇示し喧伝につとめている実情にある。戦旗・共産主義者同盟の場合も同様で,皇居及び米国大使館を本件と同じく自動車に設置した時限装置付火炎弾で襲撃した3・25事件の際も,直ちに犯行声明を出し,同派ではこれをM22ロケット弾であるとし,「皇居・アメ大をM22で攻撃!」「首都戒厳令うち破る総決起でサミット・天皇式典へ痛打!」と機関紙でも大大的に報道してその成果を誇示し,本件の際も,機関紙の号外を出して,「闘う国鉄労働者,三里塚農民に応え,10・14首相官邸,運輸省を攻撃!」と掲載しその成果を誇示し,喧伝に狂奔している。このような極めて悪質でしかも卑劣なゲリラ闘争手段が可能となるのは,すべて時限装置があればこそであって,このことは関係者の間では周知のことがらである。

原審及び当審で取り調べた戦旗派の機関紙等の関係証拠並びに当審証人甲の当公判廷における供述によれば,戦旗・共産主義者同盟は,A男を最高指揮者とした構成員約300名の過激派集団であるが,同派は,資本主義的生産並びに一切の階級対立と階級搾取の廃止,共産主義世界の実現を終極の目標とし,他の公認団体との非妥協的闘争を通じて革命的労働者党を形成するとし,そのため非合法的活動も辞さず,昭和50年から平成2年末までに同派の行ったゲリラ事件は,判明したものだけで71件の多きにのぼり,本件犯行までの主なものを上げれば,昭和50年9月15日国鉄原宿駅宮廷ホーム火炎びん投てき事件,昭和53年3月26日新東京国際空港管制搭侵入事件,昭和60年4月8日成田空港公団工事局火炎弾発射事件及び昭和61年3月25日の3・25事件があり,昭和61年度の闘争目標を,中曽根内閣打倒,三里塚二期工事阻止,東京サミット・天皇式典粉砕,国鉄分割・民営化阻止などを主なものとし,そのためには,M22ロケット砲,時限発火装置,火炎びんそのほかありとあらゆるものを武器として首都戒厳令を打ち破る実力闘争を貫徹すると宣言していたこと,被告人は,昭和50年上京後戦旗派の活動に参加し,昭和53年には成田空港開港阻止闘争で逮捕,起訴され,翌年3月保釈になってから昭和59年12月30日の山岳合宿までに70回もの多数回同派の各種集会に参加していたことが確認されており,同派政治局員B男(戦旗570号では同人は同派創設以来の指導者であるとしている。)のもとで,C男,D男らとともに活動し,本件事件直後の機関紙では,被告人及びC男を同志と呼び,また本件犯行に際しては最も重要な時限装置の作製を担当していることなどからすれば,被告人は,単に原判決がいうように同派の関連者というにとどまらず有力な活動家というべきであり,同派の合法,非合法の活動の相当詳細を知っていたものと推認される。

本件各犯行が被告人らの手によってむつみ荘で作製された時限装置を使って戦旗派の者の手によって敢行されたことは明らかであるが,誰がそれらの自動車を窃取して来たのか,誰が火炎弾,発射筒等の発射機構を作製したのか,誰がそれらの装置を窃取自動車に積み込んだのか,誰がそれらの自動車を運転して行き時限装置のスイッチを入れたのか,誰がこのような犯行を企画し指揮したのか,これらのことは一切明らかになっていない。

たしかに検察官主張のように,C男が,本件犯行の翌日むつみ荘で道路運送車両法違反で逮捕された際,本件犯行第一事実に使用された自動車の東隣区画を駐車場所としていた他人の自動車の合鍵を所持しており,さらに鍵山測定器をも所持していたことからすると,被告人らが自動車窃取にもかかわっていたのではないかと推測されないではないし,また本件各犯行に使用された自動車が,10月13日午後6時30分から翌14日午前7時ころまでの間に静岡県沼津市及び富士市で窃取されたものであり,本件各犯行が14日午後5時20分ころ東京都内で行われたものであるのに対し,本件各時限装置の完成,搬出が同月13日と推認され,その間にさほどの時間的余裕のないことなどを考えると,被告人らは単に時限装置を作製しただけではなく更に多くのことにかかわっているのではないかと疑われないではないけれども,証拠上これを確認することはできない。

然しながら,同派の有力な活動家である被告人は,同派が従来どのような非合法活動,ゲリラ活動をして来たか,特に本件と同じく駐車自動車から時限装置つき火炎弾発射装置で皇居及びアメリカ大使館を襲撃した3・25事件を知悉していたであろうことは極めて明白なことであるから,本件各時限装置を作製する際には,これが同派の前記闘争目標を達成するため,近く実行されるであろう火炎弾発射等のゲリラ活動に使用されること及びその際その時限装置が極めて重要な役割を果たすことも十分認識していたと思われるが,前記のような被告人の同派における立場及び時限装置の重要性等に鑑みれば,被告人は単に他の同派構成員らによる火炎弾発射等のゲリラ活動に助力する意図にとどまらず,火炎弾発射等にかかわる他の構成員らとともに火炎弾発射等のゲリラ活動を行って,戦旗派活動家としての闘争目標を達成しようと考え,他の者と一体となって互いに他人の行為を利用し各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議がなされていたものと認めるのが相当である。

とすれば,被告人には本件各犯行につき共謀共同正犯の成立を認めるのが相当であり,同派の内部組織・指揮命令系統及び人員構成等が不明で,とくに被告人及びC男,D男の組織上の地位及び組織中枢との関係の濃淡などが明らかでないことなどを理由に共謀共同正犯の成立を否定した原判決には事実の誤認があり,その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである。

論旨は理由がある。

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